佐賀を旅することを決めた後に、佐賀県の名物について調べていたら、伊万里湾のカブトガニがひっかかった。カブトガニってシーラカンスみたいに生きた化石って紹介されているのはよく見かけるけど、そういえば、本物を見たことはない気がする。
そんなカブトガニを無料で見られる施設が伊万里市にあることを知り、「伊万里湾カブトガニの館」に行こうと決めたのでした。
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「伊万里湾カブトガニの館」は、地域の住民が中心となった団体「牧島のカブトガニとホタルを育てる会」が、カブトガニの生態を保護・観察することを目的に作りました。
カブトガニが産卵する多々良海岸の海っぺりに、小さなプレハブのような博物館が立っています。
中にはいると、展示室中央に水槽があり、生きたつがいのカブトガニが展示されています。なぜつがいかというと、それはカブトガニの生態の特徴からです。
カブトガニは生まれてから約10年をかけて13~14回の脱皮を経て成体になります。オスとメスの性別が決まるのが最後の脱皮の後という珍しい生き物でもあります。
雄となったカブトガニは、メスを求めて伊万里湾の海底を歩き回ります。
そして、メスを見つけるとメスの後ろから近づき、第一脚と第二脚を使ってドッキングします。
このドッキングは交尾のための生殖行為ではなく、単にメスの後ろに自分を固定するためのドッキングなのです。
以後、オスはどちらかが生涯を終えるまでメスを離すことなく、ずっと二体一対で生活をともにするのです。
「伊万里湾カブトガニの館」には、地元のスタッフさんが常駐しています。館の中に入るとすぐに出てきてくれて、カブトガニの生態について解説をしてくれます。
私が説明を聞いたスタッフさんによると、スタッフさんが子供の頃には伊万里湾にはカブトガニがわんさかいたそうです。
こどもが岸壁から飛び込みをして海底に足がつくと、そこにはカブトガニ無数にいて、必ず踏んづけるぐらいうじゃうじゃしていたそうです。
しかし、伊万里湾の奥深くに工場ができて水質が汚染されるとその数は激減してしまいました。釣りで釣れる魚もやはり減ってしまったそうです。
そして解説が終わると、自在鉤のような棒を出してきて、水槽の中のカブトガニをひっくり返して、カブトガニの裏側を見せてくれます。
水槽の中で裏返ったカブトガニには、頭の方に1対の食べ物を食べるための小さな足と、ハサミのついた5対の足があり、はっきりと12本の足を見ることができます。
その形状は、クモっぽくて節足動物にも昆虫にも見えます。見る人によってはグロテスクで、有明海のエイリアン・わらすぼに並ぶ、伊万里湾のエイリアンです。
そしてひっくり返されても、メスの甲羅を離すことのない、オスの執念を見ることもできます。
ちなみにこの番は産卵期になると海へと戻されるそうです。
水槽の周りには、カブトガニに関する資料が展示してあります。
カブトガニは脱皮する毎に1齢、2齢と大きくなっていくのですが、三葉虫形幼生の1齢から、どんどん脱皮していって、成体となる13齢までの脱皮殻が剥製のように展示してあって、その成長を実感できます。
展示では「成体になってから何年生きるかはよくわかっていません」と、正直に研究がお手上げ状態であることを告白していて、好感ももてます。
この施設は無料で見学できる施設です。ただ、運営には色々な費用が生じるので、寄付を募っています。寄付をすると、カップルになったカブトガニの折り紙が貰えます。
カブトガニはカップルになったらずっと連れそう生き物なので、恋人たちにとっては縁起の良いプレゼントになるでしょう。
日本のカブトガニは、瀬戸内海と九州北部の沿岸部に生息する鋏角亜綱 剣尾綱 カブトガニ科に属する節足動物です。
学名は「Tachypleus tridentatus」、英語名は「Horseshoe crab」と全く聞き慣れない名前です。
大きさは甲羅のさきっぽから尾の端まででオスは50~70cm、メスは60~85cmです。
4億年前のハラフシカブトガニ、2億年前のメソリムルスと比べ、古生代からその形状がほとんど変わらないという、生きる化石です。
ただカブトガニ自体は長命というわけではなく、寿命は推定で約25年(カブトガニ博物館などによる推定)となっています。
それでも、昔から命を紡いできたことと、姿が亀のようで、伊万里地域ではハチガメと呼ばれ、長寿の象徴にもなっています。
驚くべきことにカブトガニの血液は銅を多く含み青い液体に見えます(人間は鉄分が多いので赤く見える)。そしてカブトガニの血液にはLAL(ラル)という、有害な毒素・毒性(エンドトキシン)に反応して凝固する成分が含まれています。
その特性を活かし、カブトガニの血液を使って、錠剤などの薬や医療器具の安全性のチェックが行われているのです。
ただ、カブトガニの血液を抜くシーンは、わりとエグくて、人のために血を抜かれるカブトガニが可哀想にも思えます。
(血を抜くためのカブトガニはアメリカ東海岸などで捕獲されていて、死なない程度の血を抜かれた後に、放流されているそうです)
ちなみにカブトガニの血液は1リットルで約150万円もするそうです。
そんだけ高価になるなら養殖すればいいのにと思いますが、日本では養殖しているところは見つかりませんでした。
タイではタイ漁業局の管轄で養殖が行われているようです。
↓世界で最も高価な液体12選でカブトガニを紹介※カブトガニは6分30秒ぐらいから
カブトガニは国から文化財種類・史跡名勝記念物として天然記念物に指定されています。
よく誤解されがちなのは、カブトガニという生き物自体が天然記念物というものです。
天然記念物は国指定や自治体が指定するものがあります。カブトガニについては、国によって岡山県笠岡市の「カブトガニ繁殖地」、佐賀県伊万里市の「伊万里湾カブトガニ繁殖地」が天然記念物に指定されていて、生き物そのものが天然記念物というわけではないのです。
なのでそれ以外の場所では、採ってもいいし食べてもいいのです。
食べる身はほとんどないので、わざわざ採る人もいませんが…
調べた限りでは、生きたカブトガニを常設展示で見られる水族館は「なぎさ水族館」(山口)、「九十九島水族館 海きらら」(長崎県)、「すさみ町立 エビとカニの水族館」(和歌山)、「笠岡市立カブトガニ博物館」(岡山県)、「鳥羽水族館」(三重県)、「長崎ペンギン水族館」(長崎)、「市立しものせき水族館 海響館」(山口県)、「姫路市立水族館」(兵庫)、「宮島水族館」(広島)などで見られます。
やはり生息域である瀬戸内海と九州北部の沿岸部にある水族館で扱っていることが多くなっています。
ほかには、「茨城県大洗水族館」(アクアワールド)で開催された“カブトガニのなるほど魚っちんぐ”のような企画展示で見ることができるようです。ちなみに、大洗水族館での企画展示ではカブトガニに直接触ることも出来ました。
カブトガニの館の前には、「牧島のカブトガニとホタルを育てる会」が建立したカブトガニ神社が立っています。
カブトガニは、常に雌雄が一緒にいて、卵もたくさん生むことから、この神社は夫婦和合と子宝に恵まれるご利益がある神社として建てられました。
そして鳥居にかかげられているのは、カブトガニを一文字で表す漢字「鱟」です、こんな漢字あるんですね。
カブトガニの産卵の最盛期は7月中旬から8月上旬の大潮の後の1週間です。
満潮に乗って、砂浜にやってきて、メスは体の半分を砂に潜らせて産卵します。
産み付けられる卵の数は1万~2万個。
幼生は満潮時に孵化して、海に出て引き潮にのって干潟へと移動して干潟で13~14年ほどかけけて成体まで成長します。
カブトガニの館は伊万里市街から結構離れた多々良海岸にあります。
電車は通ってないので、公共交通機関はバスしかありません。
また、車、徒歩、自転車でも行くことができます。
ただし徒歩は約45分かかります、レンタサイクルは伊万里駅で松浦鉄道が日額500円(9時~18時)で貸出しています。
バスは伊万里駅にあるバス停・伊万里駅前から西肥バスの「福島支所前行き」に乗り、バス停・木須崎(きすざき)でおります。なお、1日5往復しなかない路線なので、旅の計画を立てるときは注意して下さい。
所要時間は約11分、運賃は270円です。
以上が生きたカブトガニを実際に見てきたレポートと、カブトガニに関する情報です。
生きた化石が環境変化や悪化によってその数を減らしているのは悲しいことですが、その血で人類に貢献しているというのも複雑な気分になります。
カブトガニ好き!っていう人はあまりいないと思いますが、生き物好きなら一度「カブトガニの館」に行ってみて動く姿を見て、生態やら何やらを学ぶことをおすすめします。
■施設情報
・名称:カブトガニの館
・料金:入館無料
・住所:佐賀県伊万里市瀬戸町3134-448※この住所で検索すると、カブトガニの館から北へ50mの建物がヒットするので注意
・アクセス:西肥バスバス停木須崎から徒歩1分、伊万里駅から車で約10分
・営業時間:9:00~17:00(9月~6月の平日は10:00~16:00)
・定休日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
・電話番号:0955-22-5783(牧島のカブトガニとホテルを育てる会事務局)
・駐車場:無料駐車場あり