ゴールデンカムイという漫画・アニメがあります。
日露戦争の帰還兵である「不死身の杉元」は、ひょんなことからアイヌの隠し金塊の話を知ります。杉元は親友の妻であり、自身の愛する存在でもある故郷の幼馴染・梅子の目の病気を治すためのお金が必要であり、金塊探しに乗り出すのです。
金塊の隠し場所の謎は、囚人の背中に彫られた刺青の暗号に記されていて、網走を脱獄して北海道の各地に散り散りになった24人の刺青人皮(いれずみにんぴ)が揃うと在り処がわかるという仕組みです。
刺青人皮の事を知った杉元は、ヒグマに襲われているところを救ってくれたアイヌの少女・アシㇼパ(アシリパ)と共に、刺青人皮を探す旅に出るのです。
※なお作品中ではアイヌの発音にそって小文字のㇼなどが登場しますが、本稿でそのまま表記するとわかりにくいかもなので、基本的に全て大文字で表記します。
「ゴールデンカムイ」漫画らしいなかなか荒唐無稽なストーリーですが、それを感じさせない話のテンポの良さとギャグ、軍隊や土方歳三など、それぞれが正義を持った人間模様、随所に散りばめられるアイヌの歴史や文化などのためになるお話、そして読者を魅了するチタタプを始めとするアイヌの狩猟グルメ。これらが合わさって人気漫画となり、アニメ化もされています。
この漫画・アニメの中に出てくるアイヌ関連のエピソードはちゃんと取材したことがうかがえるできの良さで、それらの歴史的資料を現在でも見られる資料館があります。それが函館にある「函館市北方民族資料館」です。
特にここの資料館で取材したという言及はありませんが、北海道出身の作者・野田サトルさんは色々な資料などを参考にしています。単行本の巻末の取材協力には、「北海道アイヌ協会」がトップに記され、アイヌ文化関係参考文献では1巻では18冊の書物が記されています。実は主人公の杉元佐一のモデルは作者の曾祖父という話もあり、物語自体の奥深さもかなりあります。
また、作者はもちろんのこと、漫画の担当編集や編集長も実際にアイヌの人々のところまで足を運んで取材しているようです。
「函館市北方民族資料館」では、アイヌ民族を始め、ウイルタ民族(樺太中部に存在した民族。樺太南部には樺太アイヌがいた)、アリュート民族(アリューシャン列島にいた)など、厳しい自然の中で生きてきた北方民族の伝統的な知恵と文化が分かる、貴重な民族資料の数々が展示されています。
アニメで登場したアイヌ関連の物が資料館の展示とリンクするので(直接的に同じものがない場合もあり)、本稿執筆時現在7話まで放送されているアニメと比較して、それらをご紹介したいと思います。なお、タイトルで22倍としたのは、比較対象の数からです。
目次
アシㇼパの服装は典型的なアイヌの装身具からなっています。アイヌでは、装身具の細やかな色彩や紋様は、装飾だけではなく、病気や災難から実を守るための印でした。
服は、ニレ科の落葉高木・オヒョウの樹皮を編んだ「アットゥシアミブ」で、紐やサラニプ(背負い袋)もオヒョウの樹皮から出来ています。
また、装備に関してはアイ(矢)、イカヨプ(矢筒)、カリンバウンク(サクラの皮を巻いた弓)、タシロ(山刀)、メノコマキリ(女用小刀)、ユクケレ(鹿革の靴)、チンル(堅雪用かんじき)、エキムネクワ(山杖)などを纏っています。
年頃(結婚可能な年齢?当時なので結構若い内だと思われる)になった女性の口の周りに刺青を入れます。その大きさは身分によって異なります。
アイヌには、自然界にあるもの全てにカムイ(≒神、高位の霊的存在、精霊)が宿るという考え方があります。神々の世界では人間の姿をしていますが、自然界にやってくるときは、動物や人工物、自然現象などをまとって顕現するというものです。人々の生活は神々や精霊と共にあり、天界の神や宿る精霊は、病むものを救い、飢えをしのいでくれる大切な存在だったのです。
そのため、アイヌの生活の中では、様々なお呪い(おまじない)や神に感謝する言葉などがあります。
アイヌでは病魔が近寄らないように赤ん坊にわざと汚い名前を付けていました。
シ・タクタク(糞の塊)やテイネシ(ぬれた糞)、ソン(糞)、オプケクル(屁をする人)、フウラテッキ(汚く育つ)などなど。糞シリーズ多そうですね。
そして、6歳ぐらいになって、子供の性格がはっきりしてきたり、印象的な出来事があったりすると本当の名前を付けていました。
人に何かもらったら自分の守り神トゥレンペ(憑き神、火・水・雷・狼・熊などの神様)にお供え(おすそ分け)をします。トゥレンペは首の後から出たり入ったりしているので、もらったものを首の後ろにもっていく動作をします。
※対象展示なし
アイヌの儀礼の中でも最も重要な儀礼の一つです。熊はカムイの中でも特別な力をもった動物とされていて、格別に神聖視されていました。そのため、熊を殺して神々の世界(カムイモシリ)へ送り返すのは大事な儀式となっていました。アイヌは動物の中に神の魂や霊が宿っていると考えていて、熊だけではなくシマフクロウやシャチも送りの対象になっていたそうです。
送りの儀式のことは「イオマンテ」と言います。なお、北海道やロシア東部、アラスカなどの北方民族でこの風習は見られ、子熊を1~2年飼育してから送る「飼い熊型」と狩猟で捕殺した熊を送る「狩り熊型」の2タイプがあります。
※比較資料なし
北海道の厳しい自然の中で暮らしていたアイヌは、独特な生活風習、文化、遊び、工夫などを身に着けていました。作中ではそれらもしっかりと描かれています。
喧嘩や口論が収まらない場合、双方の親族が集まり、両者が背中をストゥで3度殴打し合って無事なら喧嘩両成敗という風習があったそうです。あとは名の通り、処刑用道具としての用途。アイヌでは窃盗が重罪だったので窃盗犯(罪人)を杖刑にするための棒でした。また、このような棍棒を用いた戦闘もあったと記録されています。
ダメージが大きくなるようにギザギザ状になったものや、玉がいくつも連なるような形状のものがありました。
・ムックリ(口琴)の製作・演奏体験
函館市北方民族資料館ではムックリ製作・演奏体験が可能。(1週間前までに要予約、料金:500円 所要時間:約90分 対象:小学4年生以上。1~10名程度)
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作中の描写と「函館市北方民族資料館」での展示を見比べると、どれだけ作者がちゃんと取材しているかがわかるかと思います。
そしてそれを面白いストーリーの中に組み込むことで、単なる文化紹介ではなく、アイヌの暮らしを実体験しているかのごとくリアルに感じられる作品になっています。
また、作中ではたくさんの美味しそうな料理が登場します。さすがに資料館では料理までは展示できないので、このようなアイヌ料理を美味しく食べられる食事処・レストランが函館に出来たらぜひまた行ってみたいと思います。
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