伊万里焼で有名な伊万里市。かつては、焼き物を江戸や遠くヨーロッパなどに輸送するための積出港として栄えました。伊万里川の川沿いには、白壁の陶器商が連なり、搬出する陶磁器を保管したり、買い付けに来た江戸の商人が滞在したりしていました。
それらの建物は時代とともにほとんどは解体されてしまいましたが、今でも、伊万里津屈指の陶器商・犬塚家の白壁土蔵造の建物を利用した「伊万里市 陶器商家資料館」では、当時の陶器商の建物の特徴を完璧に残した家の中で、伊万里焼の展示や客室の様子などを見ることができます。
目次
伊万里川に向かって白壁をさらす建物
かつての伊万里には千軒在所と言われるほど、白壁の土蔵がずらりと並んでいました。しかし、いまでは旧犬塚家住宅である「伊万里市 陶器商家資料館」とそのお隣の「海のシルクロード館」(復元施設)でしかその姿を見ることができません。
「伊万里市 陶器商家資料館」の正面入口は、伊万里川に向かって北側にあります。紺で染めたのれんには、商号の「丸駒」の字が記されています。
建物は1825年(文政8年)頃に建てられたもので、正面の幅は間口三間(5.519m)あり、奥行の方が長く八間(14.825m)あります。この間口が狭く奥行きのほうが長いという細長い形状は「うなぎの寝床」と呼ばれています。
また、防火対策の白壁土蔵造りは装飾が少なく重厚感があって、見応えがあります。
ガイドによる説明が無料で聞ける
中に入ると「伊万里市観光ボランティアガイドの会」のスタッフさんによる建物についてや伊万里焼の解説が聞けます。入館、解説ともに無料で、一人でもガイドさんは付いてくれるので、遠慮なくいろいろ聞いちゃいましょう。
まず、入り口を入ると、土の地面の土間が置くまで続いています。人の出入り、荷物の出し入れが多かった商家では、いちいち靴を脱がないでも良いように、土間が裏手口まで続いているんですね。
建物自体が当時の商家の暮らしを表す展示物なのですが、館内には、伊万里焼や商家の様子、逗留する商人の暮らしがわかる展示がもりだくさんです。
商人は、江戸からだけではなく、諸国から訪れ、短くても1ヶ月ほど、長くて6ヶ月にも渡り逗留したそうです。佐賀藩は伊万里に遊里の設置を認めなかったので、商人たちの暇つぶしに、商家の子女達は琴や三味線、舞踊などでもてなしました。また、商人たちは和歌や俳諧、書画などを楽しんだり、国学や漢学を学んで、滞在時間を過ごしたそうです。
押し込み強盗対策など、建物の構造や装飾・家具などが面白い
商家には価値の高い伊万里焼やお金など、強盗から見たら美味しい盗みたいものがいっぱいあります。その為、泥棒対策も施されていました。
江戸から来た商人は、商談や伊万里焼が完成して送り出すまでの間、商家の二階に逗留していたのですが、泥棒が入った時は、段差のある奥の部屋に籠もることができました。
また、2階からは1階の様子が伺えるようになっていて、これも有事の時には役に立ちます。
泥棒関連以外では、天井から吊るされた滑車が気になりました。なんでもこれは、商人の個人的な荷物などを二階に上げるために使われたそうです。半年もいるならそりゃあ荷物は多くなりますよね。
ほかにも、商人が滞在する部屋の縁起をかついだ鶴亀の欄間や入り口脇にある自動シャッターのための重りなど、地味ですが、当時の商家の機能がわかって面白いです。
青が印象的な古伊万里の展示
伊万里では、最初は焼き物は作られていなかったのをご存知でしょうか。有田などで作られた陶磁器を運搬するために一度、伊万里津(港)に集積し、そこから船で運んでいたので、総称として「伊万里焼」と呼ばれていたのです。
そして、後に佐賀藩直営の高級磁器「鍋島焼」などが伊万里の地でも焼かれるようになりました。
そのため、今では区別のためとして、前期の伊万里以外で焼かれた陶磁器のことを「古伊万里」、実際に伊万里で焼かれたものを「伊万里焼」「鍋島焼」と呼ぶのです。
「陶器商家資料館」では古伊万里を展示しています。
もし、より高級品の鍋島焼の展示を見たければ、唐津駅の2階にある「伊万里・鍋島ギャラリー」(300円)で見ることができます。
■施設情報
・名称:伊万里市 陶器商家資料館
・料金:入館・ガイド無料
・アクセス:伊万里駅から徒歩5分
・営業時間:10:00~17:00
・定休日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
・電話番号:0955-22-7934
・駐車場:なし
伊万里焼「海のシルクロード館」
「伊万里市 陶器商家資料館」のお隣に建つこの建物は、昔に建てられたものが現存しているのではなく、旧犬塚家住宅の隣に、白壁土蔵の建物で伊万里の魅力を知ってもらうための観光施設として作られました。
中は、「陶器商家資料館」同様に陶器商の住宅の作りをしていて、伊万里焼の展示やかつてこの場所にあった陶器商肥前屋の屋敷の復元ミニチュアなどが見られます。
建物の構造としては、礎石(そせき)の実物やスケルトンになった白壁土蔵造りの構造なども見られます。
また、ろくろを使った伊万里焼の陶芸体験も可能です。
マグカップなど、伊万里焼の商品を手頃な価格で販売もしています。
■施設情報
・名称:海のシルクロード館
・料金:入館無料
・アクセス:伊万里駅から徒歩5分
・営業時間:10:00~17:00
・定休日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
・電話番号:0955-23-1189(楽々陶工房 肥前屋)
・駐車場:なし
まとめ
伊万里には、伊万里焼の窯元や資料館などが集結した「秘窯の里 大川内山」「鍋島藩窯公園」エリアがあります。しかし、そこにいかなくても、古の伊万里焼の商家の暮らしを見て教えてもらって学べる「伊万里市 陶器商家資料館」と「海のシルクロード館」は、無料なのにかなり満足できる施設でした。
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