唐津で最もモダンで優美なレンガ調建築「旧唐津銀行本店」を見学

唐津は、かつて唐津藩が置かれ、寺沢家や大久保家、松平家、土井家、水野家、小笠原家によって治められた6~12万石(実高20万石程度)の領地です。

江戸時代の後は、唐津炭田の石炭産業の発達と鉄道の普及により明治中期以降に大いに栄え、メインストリートには唐津銀行本店が建てられました。

目次

名建築家・辰野金吾が監修した美しいレンガ調の洋館

2階部分には赤レンガのアーチ窓と御影石の受飾突石が

建物の設計の監修は、肥前国唐津藩(唐津城下坊主町)で生まれた時の名建築家・辰野金吾(1854~1919年)が請け負います。日本初の職業建築家として活躍していた辰野は、当時東京駅の設計工事をメインの仕事にしていたため、藩校の同級生・大島小太郎(唐津銀行頭取)から要請された仕事を、弟子である清水組の田中実(1885~1949年)に託します。

辰野金吾

入り口にある唐津焼の辰野金吾(左)。右は曾禰達蔵

田中実が設計した建物は辰野金吾の特徴である「壁面の赤と白の対比」を思わせる、赤茶色のレンガ風タイルと白御影石のコントラストが見られます。

また、建物上部には塔部が設けられ、正面には左右対称に銅板葺きの尖塔があります。(南側の尖塔は辰野式の特徴である王冠のような飾り立て)

尖塔にも注目。また、入り口の両脇には柱頭に優雅な渦巻き装飾を持つイオニア式の柱もある

ほかにも、アーチ窓とそれを支える御影石面台・受飾突石、御影石バルコニーや歯飾付き銅板製の三角破風など、イギリスヴィクトリア様式のクイーン・アン様式を日本化した「辰野式」スタイルが至る所に見られます。

建築家・田中実としての工夫は、アール・ヌーヴォーのデザインを取り入れたり、当時最新の建築材料だったタイルの使用や内部の飾り柱、壁漆喰仕上げなどで、明治・大正時代の建築としては、群を抜く施工技術で作られました。

建物は1910年(明治43年)に着工し、1912年(明治45年)に竣工しました。そして1998年(平成10年)には唐津市に寄贈されています。

外国映画を思わせる美しい木製カウンター

今では全く見られない飾り格子が付けられた木製のカウンター。艶やかに美しい木の風合いと格子のカウンターは、まるで海外映画のワンシーンのような美しさです。また、カウンターから伸びる柱も柱頭にアカンサス(地中海オオアザミの葉)の飾りを冠したコリント式の柱で、ギリシャ神殿のような荘厳さも併せ持ちます。

横に長いカウンター。茶と白のコントラストも映える

カウンターのアップ

細部の装飾、備品が見応えあり

1997年(平成9年)まで佐賀銀行唐津支店の建物として営業を続けていた建物には、銀行ならではの機能が残り、また、京都高島屋が担当した装飾が残ります。

金庫の扉は厳重で分厚く、札束のレプリカでは1億円分の重み10kgを実感できたりもします。

分厚い金庫の扉。金庫の中にも金庫があったりする。手前右が1億円体験

また、当時の建築と装飾のセンスの良さを感じる装飾品も見応えがあります。

花びらのような照明フードとアームのカーブが良い

スイッチには可愛らしさも

館内には9つの暖炉があり、客だまり、営業質、重役室、貴賓室と、場所のレベルがアップするにつれつくりも豪華になるという変化もあります。

貴賓室の暖炉は大理石の彫刻が見もの。暖炉の燃料はもちろん唐津炭田の無煙炭を使っていた

カーブとストレートの組み合わせで見せる階段

階段は、下部は螺旋階段のようにカーブを描いています、しかし途中の直角の曲がり角からは直線で上る階段になり、矩折階段として、リズム感のあるデザインとなっています。

また、木には透明度の高いニスが塗られ、木の美しい木目を強調しています。大きくとられた採光窓から光が階段に指す時、階段室は一つの芸術作品のようです。

階段でさえ作品の一部

展示ホールになっている「旧総会室」

2階の「旧総会室」には辰野金吾に関連する様々な展示を行っています。大きな絵は、辰野金吾の日本銀行や東京駅などの作品を集合させた絵図で、見ごたえがあります。

辰野金吾博士作品集成絵図

辰野作品の代表作「日本銀行本館」の100分の1模型もあります。

ほかにも、「日本銀行唐津代理店」と記された印鑑や田中実のプロイール、辰野作品の「中央停車場(東京駅)」についての紹介パネルなどがあります。

印鑑

模型

ボルトンキャッスル号や唐津出身の著名人に関する展示

パナマ運河開通後に運河を通行した船・ボルトンキャッスル号が初めて日本に寄港したのが唐津港だったことを記念して、資料展示が行われています。

ボルトンキャッスル号の模型や当時の新聞

唐津出身の建築家・曾禰達蔵や政治家・高橋是清などに関する展示もあります。

曾禰達蔵設計の旧三菱合資会社のミニチュア

ライトアップされた夜の風情もまた格別

夜になると旧唐津銀行本店はライトアップされます。カラフルな色で華美にするのではなく、シンプルに下から照らしてモダンな建物の陰影をくっきりと夜の闇にさらす姿は、その造形の美しさを際立てます。また、角に立つ街灯風の照明がオレンジに輝き、近代化する文明開化の頃の日本を思わせる風情があります。

昼とは雰囲気を変える建物

イベントなども開催

1階のホールなどではイベントなどを開催。明治のモダンな建物の中で踊れる社交ダンスやコンサートなど、名建築ならではのイベントが人気となっています。

キャパはそこまで多くない

地下には「レストラン唐津迎賓館」もある

地下1階には、洋館の風情にふさわしいアンティーク調の「レストラン唐津迎賓館」があります。ここでは、ランチコース1800円~、ディナーコース2500円~で、オーナーシェフ吉野好宏による唐津の食材を使った洋食メニューや鉄板焼きなどがいただけます。

レストランの営業は11:30~17:00(16:00LO)、17:30~22:00(21:00LO)。

料理のイメージ

まとめ

モダンさと重厚さを併せ持った外観と、元銀行というユニークな作りの内観で面白い旧唐津銀行本店。

無料とは思えないほど面白く興味深い見所がまとまっているので、建築好きやインテリア好き、唐津の歴史に興味がある人にとってはたまらない施設です。

■施設情報

・名称:旧唐津銀行本店

・料金:入館無料

・住所:佐賀県唐津市本町1513-15

・アクセス:JR唐津駅から徒歩7分

・営業時間:9:00~18:00

・定休日:無休(12月29日~31日は休館)

・電話番号:0955-70-1717

・駐車場:有料駐車場あり(1時間以内100円、それ以降は30分ごとに100円)